大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和33年(オ)314号 判決

神戸市生田区北長狭通二丁目一五番地

上告人

箕輪広吉

右訴訟代理人弁護士

小松克己

被上告人

右代表者法務大臣

井野碩哉

右当事者間の不動産売買無効確認等請求事件について、大阪高等裁判所が昭和三二年一二月一九日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告申立があつた。よつて当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人小松克己の上告理由について

記録によれば、本訴第一審において被上告人と箕輪孝次郎とは共同被告として訴を提起せられたものであるが、上告人主張の認諾調書(記録二六丁以下)は上告人と孝次郎間のもので、本件が必要的共同訴訟に非ざることは訴状並びに訴状訂正申立書(記録一丁、三一丁)に徴して明らかであるから孝次郎の右認諾が上告人と被上告人間の本訴請求に何らの影響を及ぼすものでないことも亦明らかであるのみならず、上告人は、孝次郎は本件各不動産の所有権を有しないから、被上告人のため抵当権を設定する権原を有しない旨主張し(記録三六丁、四六丁、一丁、三一丁)たうえ、昭和三一年九月二五日の口頭弁論において甲第一号証(一三坪五勺の家屋登記簿謄本)を提出したのに対し、原審は上告人の右主張事実を否定し、本件家屋は上告人より孝次郎に贈興した旨認定していることが原判文上明らかで、右甲第一号証は証拠として採用されていないところである。従つて、本件家屋所有権は孝次郎と上告人間にあつては上告人のものであるとしても、上告人と被上告人間においては、原審はこれを孝次郎の所有と認定したものであつて、必要的共同訴訟でない本件にあつてはこのような判断は許容されるのみならず、原判決認定の事実は挙示の証拠により充分これを認めることができるから結局原審の判断に所論のような違法はなく、論旨は理由がない。

よつて、民訴四〇一条、九五条八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)

昭和三三年(オ)第三一四号

上告人 箕輪広吉

被上告人 国

上告代理人小松克己の上告理由

第一 原判決は民事訴訟法第四二〇条(再審事由)第一項九号の判決に影響を及ぼすべき重要な事項に付判断遺脱の違法がある、すなわち

訴外箕輪孝次郎(以下孝次郎と略称す)の昭和二十九年度贈与税六十五万円也の租税債務換言すれば、被上告人の本件抵当権の被担保債権は、上告人箕輪広告、訴外孝次郎間に本件不動産につき、売買贈与等の移動行為に因つて発生するものであるが訴外孝次郎は昭和三十一年三月廿日の第一審口頭弁論に於て上告人の請求の趣旨、原因を全面的に認め(訴状、答弁書御参照を乞ふ)本件不動産につき其移動原因(売買、贈与等)無き旨の認諾を為し成立に争のない甲第一号証に示す通り昭和三十一年五月拾五日訴外孝次郎の本件不動産取得登記は抹消され上告人の所有権は復元されている。

しかるに、原判決は右認諾調書及甲第一号証に示された事項と上告人の請求を排斥すべき原判決が認めた証拠との関連性につき判断を遺脱している。

第二 原判決は民事訴訟法第三九五条第一項六号の判決理由に齟齬あるものである、すなわち

証拠関係に於て、被上告人は甲第一号証の成立は認めている、詳言すれば前述の通り昭和三十一年五月拾五日訴外孝次郎、上告人間には本件不動産の移動無きこと(認諾)を原因に訴外孝次郎の所有権取得登記は抹消され上告人の所有権は復元している登記簿謄本の成立は争はないのである。

しからば、他の証拠に因つて訴外孝次郎、上告人間に本件不動産の移動原因有りと理由づけても、右甲第一号証との関係に於て其理由に齟齬を生ずる。

詳言すれば、訴外孝次郎、上告人間には最早本件不動産につき其所有権移動原因の有無については前述の認諾の既判力及其物的限界によつて争われない関係が確定されているに拘らず、被上告人、上告人間に於てのみ他の証拠によつて、訴外孝次郎、上告人間に本件不動産の所有権移動原因有りと理由づけても、理論上成立し得ないからである。

第三 要するに、原判決は一審に於ける訴外孝次郎、上告人間の認諾の既判力は被上告人に及ばないとする原則論に捉はれ上告人は訴外孝次郎に対し本件不動産の移動原因無しとする請求原因を前提とする請求を為し被上告人に対しても亦右訴外孝次郎に対する請求と同様の請求原因を前提に被上告人の本件抵当権の抹消を請求する本訴請求の構造を看過するもので、上告人と訴外孝次郎間に本件不動産の移動原因なき処に、被上告人に本件抵当権成立の基礎たる被担保債権(贈与税)発生の余地は理論上も税法上も無い。

ただ民事訴訟法の特質から本件の如く、前提条件が先に確定し其既判力の観点だけからみれば原判決の如く前提条件を無視する判断が無され得るかの如きも、本件につき同時判決又は本件認諾が原審又は当審(上告審)で為された場合を想定すれば原判決の違法は明であり、其原因は前述の通り、上告理由第一、第二、のいづれかに存するのである。

若し原判決の如くんば、本件につき相矛盾する二つの既判力が当事者間に交互に作用し、具体的に云えば

(1) 訴外孝次郎は上告人に対し本件不動産の所有権移動につき法的に争われない。

(2) 上告人は本件不動産につき訴外孝次郎に移動なかりし事実に基き被上告人に対し本件抵抗権の抹消を訴求し得ない。

(3) 被上告人は原判決に基き訴外孝次郎に対し本件不動産の移動ありたるを主張し得ない。

等の事態になり本件につき永久に法的解決を不能ならしめるもので原判決の破毀は免れない。

以上

(附属書類省略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例